漫画雑記

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気付いた熱から逃げられなかったのは、わざと。『潜熱』ネタバレ・感想

私も知らなかった熱が思考回路を奪う

 

潜熱 野田 彩子 BIG COMICS ヒバナ 小学館 全3巻

 


あらすじ

大学生の瑠璃はコンビニでバイトしていた。
そのコンビニにいつも同じ銘柄の煙草を買いにくる男性・逆瀬川が気になっていた。
商品名を言わず、ただ「6ミリ2つ」と告げるのみ。
だが、瑠璃が気になっていたのはそれだけでなく、逆瀬川の態度も目立つものだったからだ。
客とのトラブルなどコンビニ内でも問題視されていた。
それでも、瑠璃は煙草を買う逆瀬川の笑顔を可愛いと思い、惹かれて行く。
そしてある日、突然の雨に瑠璃は傘を購入しようと店によるも、そこにたまたま逆瀬川もいた。
何故か声をかけたくなり、思い切って声をかければ、逆瀬川は傘を持っていない瑠璃を家まで送る。
車内で煙草を吸ってもいいかと聞かれた流れで瑠璃も吸うことになるが、吸ったことがないため上手くいかない。
家に着き、車から降りた瑠璃は逆瀬川に話してみたかったことと優しい人だと思ったことを告げる。
自分を優しいと言う瑠璃に逆瀬川は優しいと思うのか、と問いなおしそして自分の吸っていた煙草を瑠璃に吸わせる。
そして自宅についた瑠璃は社内のことを反芻しながら携帯を落としたことに気付き、そのタイミングで携帯から電話がかかってくる。
瑠璃の携帯を預かっているのは逆瀬川だった―…。


大学生とヤクザの話。
映像化しそう、と思いましたがどうでしょうか。
刺青がっつりのヤクザもの。
映像化するなら俳優ネタの『ダブル』の方がしやすいかな?


いわゆる「イケオジ」という印象はない。
外見好きで、という導入ではなく「笑顔が可愛い」という理由。
しかも普段客を蹴ったり(問題行動)しているからこその、ギャップ萌えというのかもしれないけれど、それ以前の問題。
気になったからと言ってヤクザだと噂されている人に声をかける瑠璃。
普段話しているならともかく、客と店員でほぼ会話はなし。
この行動をするからこそ、逆瀬川もどんどん瑠璃との距離を縮めて行く。
ただ、逆瀬川若い女性が好きなので、それだけというような扱いでもあり、面白がっている風でもある。

逆瀬川が好きになるのはいつだって若くて細くて儚い雰囲気の黒髪の女性。
瑠璃は逆瀬川の好みど真ん中。

だからこそ、試すような素振りで瑠璃に接する。
そんな逆瀬川の一挙手一投足に瑠璃は感情を揺さぶられっぱなしです。

瑠璃は男性にあまり慣れていないからこそ、一度気になってしまった感情を止める事が出来ない。
気がつかない内に、どんどん沼にはまっている。
だけど、実は本人は気付いていてもそのぬかるみに足を取られたままでいいと思っているのかもしれない。
そんな危うさが瑠璃にはある。
だからこそ、瑠璃が恋愛と向き合ったことを喜んでいた友人が必死に止めても瑠璃はその意見を聞いているようで、聞かない。
全てちゃんと届いているのに、自分の感情のみを優先させていく。

逆瀬川の方も息子と同じ歳なため周りから反対されます。
また、同じ様なタイプの女性ばかり惹かれるためわかりやすいとも言われます。

逆瀬川の態度は酷いことも多く、瑠璃の友人も止める。
人へのプレゼントを横流ししてきたり(しかも、その理由を瑠璃に言う)、笑顔よりも落ち込んだ顔を綺麗だと言ったり。
そんな相手なのに、瑠璃はどうしても逆瀬川のことが気になって仕方ない。
嬉しそうに逆瀬川と出かける時の洋服を選び相手の反応に赤くなったり、焦ったりと忙しい。
また、瑠璃ののめり方を危惧して止める友人の声を振り切る。
逆瀬川の息子、逆瀬川の元妻、逆瀬川の子分、逆瀬川を好きな女性。
そんな人達が次々と瑠璃の周りを囲みますが、瑠璃はずっと自分の感情とのみ向き合っている。

瑠璃は本当にまっすぐ逆瀬川のみを見つめている。
怖いくらいに。
好きになったきっかけが「笑顔が可愛い」だけで、逆瀬川が暴力を振るう姿を見ようと、酷い言葉で息子を追い詰めようとまっすぐに逆瀬川を見つめる。

瑠璃は過去、男性が苦手だけどモテて困ったり痴漢にあったりと男性に対して良い感情がなかった。
その状態からの逆瀬川への恋愛感情。
まさに落ちるスピードが速過ぎて誰にも止められない。
それは瑠璃自身も。

その落ち方が逆瀬川にとっても良かったんだろうな。
逆瀬川も周りがどうかしているというような感じになって行くし。

ただの遊びじゃなかったのか。
周りにいる女性(瑠璃と出会ってからもキャバクラ行きますし女性と寝ます)と瑠璃はどう違うのか。
逆瀬川自身も瑠璃は今までの女性とはなんとなく違う気がする、といわゆる勘のようなものを子分に告げます。
そうですか、と子分は納得しないけれど子分ですからね。
別れて欲しくとも、強くは言えませんよね。
子分が別れて欲しいと思う理由は瑠璃の危うさです。
皆に分かられている瑠璃の危うさ。
会う人会う人に指摘されても、瑠璃は逆瀬川を見つめている。
あなただけ見つめている」(大黒摩季)を思い出してしまった…。

ただ恋をしているだけ。
言葉にすればこれだけなんですが、瑠璃の感情の向かい方が凄くて出てくるエピソードごとに、ちょっと怖さがあるんですよね。
普段はそんなことなく、甘い物を食べたり可愛い物を愛でたり、笑ったり。
それなのに、話ごとに現れるのは微妙に怖い瑠璃の対応。

潜熱。
タイトル通り、どこに潜んでいたのかわからない熱が一気噴き上がり、気付いた時にはどうすることも出来ない状態になっている。
日常の中、特別な事なんて何一つない。
ただ、笑顔が可愛いと思った人を好きになった。
それなのに、熱の向け方一つで怖くなる。
誰にも眠っているかもしれない、狂気のような熱。
※潜熱には「中に潜む熱」と「状態変化に熱が使われるも温度変化がないもの」という意味があります。

野田先生の描く線の細さが瑠璃の儚さを演出。
ただ、しっかりとした描写で芯の強さを現すような瞳の描き込み。
ノローグで語るよりは、空間で語る感じなので「汲み取って」という場面が多い。
そのための目力であり、表情。
その上で瑠璃の嬉しそうな顔が恋をしている嬉しさなどと相まっていいんですよね。
カバー下のコピーが素敵。
メタルインクで刷られたシンプルな絵(漫画の一シーン)とコピーのみ。

全3巻なのでサクっと読める内容です。
恋愛の楽しさと恐怖のようなものを感じられる作品。
でも、恋愛というか、感情はどうする事も出来ないし、理性が働いているのかどうかもわからない状態で突っ走るのを止める術はどこにあるのか。

綺麗にまとまっていますが、モヤっとする方もいるかも。